2018年6月17日日曜日

「リンさんの小さな子」 を読んだ感想

以前、ラジオで紹介されていて、読んでみたいなと思っていた本です。
オフィシャルサイトでも品切れなので、買えるのかはわかんないですが・・・


著者:フィリップ・クローデル
訳者:高橋啓


主人公はリンさんというお爺さん。
登場人物はリンさんの孫娘の「サン・ディウ」と、異国で出会った「バルク」という男性くらいです。
他の登場人物は名前すら出てこないんじゃないかな?

リンさんは戦争で難民となって、言葉の通じない異国へ渡り、そこで孫娘を守り生きていくことを決意します。
そんな異国で出会った大柄のバルクという男との交流を中心にストーリーが進んでいきます。
リンさんとバルクは言葉が通じませんが、それでも、すこしずつ心が通じ合うようになっていきます。
あまりストーリを書くと、ネタバレになるので書きませんが、
とても優しいお話です。でも泣いちゃいますね。

先にも書いたようにリンさんは異国の言葉がわかりません。
なので、バルクさんとは完全な意思の疎通ができるわけでもなく、お互いの名前さえ知らないのです。
異国の街を仕方なく散歩するリンさん、妻を亡くして話し相手が欲しかったバルクさんが偶然同じベンチに腰かけたのが始まりで、二人は交流を深めていきます。
お互いに意思の疎通ができないので、二人は、そのベンチに行くことで再び相手に会えるかもしれないと考え、日々、ベンチへと足を運びます。

リンさんは物語の中で、バルクさんと会うこと以外の全てにおいて、息子夫婦の残した孫娘のことだけを考えて行動しています。独りだけなら戦地となった故郷から逃れることもなかったでしょう。
異国の街を歩くのも、異国に興味があるわけではなく、孫娘を散歩に連れていくためであり、食事ですら孫娘を守るための体力をつけるためと考えています。
奇妙な年寄りだとまわりに思われても、ただ一人残った家族のために奮闘します。

そして、リンさんは難民ということもあり、ストーリーには「戦争」の影響が陰を落としています。
そもそもの話の始まりは、リンさんが戦争によって難民となることであり、戦争がなければ異国へなど行かずに、村で平穏に暮らしていたのでしょう。
物語の中でも、故郷のことを幾度となく思い返しています。
リンさんにとって、苦難の始まりは戦争であり、また、バルクさんも過去に経験した戦争によって心を痛めています。
ストーリーの中で戦争の描写はあまり多くありませんが、それでも充分なほどに戦争の悲惨さは伝わってきます。
この本は、リンさんとバルクさんの心温まるハートフルストーリーのようですが、読み終えると戦争の悲惨さを感じることになると思います。

この本を読み終えた後、一番気になったのは「リンさんとバルクさんの関係が、これから先も続いていくのだろうか?」ということです。
親友のような関係となった2人ですが、二人に見えている世界は少し違っているように感じます。もし、今後二人がより相手を理解していくことになると、自分と相手の見えている世界の違いに気づいてしまうのではないか?
そのときに2人は今のままの関係で居られるのだろうか??
リンさんには、これからは平穏な人生が待っていてほしいものです。